日本人の死因の上位を占める三大疾病。がんや脳卒中など、誰もが一度は耳にしたことがあるほど有名な疾病の総称で、もし罹患してしまった場合は、治療によって長期的に働けなくなる恐れもあります。
三大疾病保険は、そんな三大疾病にかかった場合に一時金などの給付金が受け取れる保険です。このページでは、三大疾病保険の特長から必要性、加入時の注意点までわかりやすく解説していきます。
大学卒業後、大手損害保険会社勤務を経て独立。保険会社時代は代理店営業、新入総合職員の研修担当に従事する。独立後は、FPとして生命保険をはじめとした保障の見直しや、中小企業経営者への事業承継・相続対策などの提案業務を行う。地方ローカル局にて、お金にまつわる話題を取り扱うラジオ番組「おしえて野口さん!」を23年継続放送中。
大学卒業後、大手地方銀行に就職。融資業務に加え、投資信託・保険商品等の資産管理業務を担当。退職後はライターとして独立。複数の大手WEBメディアにて執筆実績あり。
そもそも三大疾病とは?
三大疾病とは、がん(悪性新生物)、心疾患、脳血管疾患の総称です。厚生労働省の発表している日本人の死因データを見ると、三大疾病が占める割合は約5割。つまり、日本人の2人に1人が三大疾病で亡くなっていることになります。
※出典:厚生労働省 令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況:「概況」をもとに作成
加えて、三大疾病は治療が長期化しやすい病気です。それぞれの平均的な入院日数は次の通りです。
疾病の種類 | 平均入院日数 |
---|---|
がん | 19.6日 |
心疾患 | 24.6日 |
脳血管疾患 | 77.4日 |
※出典:厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況:「3 退院患者の平均在院日数等」をもとに作成
上記のとおり、脳血管疾患では平均入院日数が77.4日とかなり長期化しやすくなっていることが分かります。
また、比較的入院日数が短いがんの場合でも、通院で治療を継続するケースが増えているため、実際の治療期間はさらに長くなります。
では、三大疾病はそれぞれどのような特徴を持ち、どうやって備えればいいのでしょうか?ご自身が特に必要とする保障はなんなのか、まずは病気を知ることから始めていきましょう。
がんとは
がんは、一生のうちに2人に1人がかかる罹患率の高い病気です。長い間日本人の死因トップとなっており、男性では4人に1人、女性では6人に1人ががんを理由に亡くなっています。
患者数・死亡者数ともに増加する一方で、生存率は多くの部位で上昇しています。
がんの治療は長期化しやすい
がんは、ひとたびかかると再発・転移のリスクがあり、治療が長期化しやすいという特徴があります。
グラフのとおり、入院期間は短くなる一方、通院治療は増加しています。
※出典:厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況:「3 退院患者の平均在院日数等」、厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況:「1 推計患者数」をもとに作成
こうした性質上、がんは働きながら治療をする人も増加しています。
がんと聞くと入院治療のイメージがあるかもしれませんが、厚生労働省による2019年の調査では、働きながらがんの通院治療を受けている人は全国で約44.8万人(男性18.6万人、女性26.2万人)いると推定されています(厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」より)。もちろん、進行度や医師の判断も関係してきますが、継続的な収入を確保するという点でも、通院治療が選択肢のひとつになるのです。
がんの治療費はどのくらい?
がんになると、どのくらいの治療費がかかるのでしょうか。入院による平均的な治療費を下表にまとめました。
■がんの入院治療にかかる治療費の目安
※出典
平均入院日数:厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況:「3 退院患者の平均在院日数等」より
治療費:「政府統計の総合窓口(e-Stat)」調査項目を調べる-厚生労働省 令和2年度「医療給付実態調査・第3表 疾病分類別、診療種類別、制度別 件数・日数(回数)・点数(金額)」より、統計表点数(金額)÷件数にて算出
1日あたりの治療費:3割負担の治療費÷平均入院日数にて算出
上記は保険診療を受けた場合の目安です。保険外診療にあたる、先進医療・自由診療を受けると治療費は全額自己負担になります。そのため、治療法によっては上記の金額よりも高額になる可能性があります。
がんの通院治療にかかる費用、治療期間
通院で行う主な治療には、放射線治療と抗がん剤治療があります。
具体的な治療費は、がんの種類や進行度などによって異なりますが、一般的な治療ペース・期間は次の通りです。
- 放射線治療・抗がん剤治療の一般的な通院期間と頻度
- 放射線治療:土日をのぞいて毎日実施、期間は1日~2カ月程度
- がん剤治療(化学療法):週1~月1回のペースで実施、期間は数週間から2年以上になることも
がん治療は数年続くケースもあるため、その場合は治療費が大きな負担になる可能性があります。
心疾患とは
心疾患は、がんに次いで亡くなる人が多い心臓の病気です。具体的には、心筋梗塞、狭心症、心不全などがあり、患者数は全国で173万2千人と推定されています(厚生労働省「平成29年(2017年)患者調査の概況」)。
心疾患全体での患者数は減少しているものの、その一部である心不全のみ増加傾向にあります。高齢化を背景に、今後も心不全の患者数は増えていくことが予想されています。
心疾患の罹患リスク
※出典:厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況:「統計表1~8」をもとに作成
心疾患は高齢になるほど罹患リスクが高くなりますが、特に40代から罹患数が増加し始めます。治療によって職場復帰が可能になっても、心臓への負担を考慮した働き方をする必要があるため、働き盛りの40代を迎えたら、特に意識しておきたい病気だと言えます。
脳血管疾患とは
脳血管疾患とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳の病気の総称です。かつては日本人の死因第1位の病気でした。
患者数は全国で111万5千人と推定されています(厚生労働省「平成29年(2017年)患者調査の概況」)。
脳血管疾患は入院が長期化しやすい
脳血管疾患の平均入院期間は77.4日と、三大疾病の中でも特に長期化する傾向にあります。そのため、ひとたび罹患すると働けない期間が長くなることが予想されます。
※出典:厚生労働省 平成30年版厚生労働白書-障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に-「全体版」をもとに作成
脳血管疾患の罹患リスクは男性の方が高く、心疾患と同様に40代から増え始めます。後遺症が残る可能性や、再発リスクもある病気です。
三大疾病保険ってどんな保険?
三大疾病保険の大きな特長は、その名の通り三大疾病に特化した保障が受けられる点です。ここでは、代表的な保障内容について、具体例を交えて解説します。
三大疾病保険の一時金とは(メリットとデメリット)
一時金は、三大疾病保険の主な保障のひとつです。がんと診断されたときや、心疾患、脳血管疾患で所定の状態になったときに、100万円、300万円などのまとまった金額が受け取れます。メリットとデメリットに分けて、その特徴を詳しく見ていきましょう。
- 一時金のメリット
- 使い道が自由
治療費のほか、日々の生活費などにも充当可能です - 複数回受け取れる商品がある
再発したときにも一時金が受け取れます
- 一時金のデメリット
- 給付回数が1回のみの商品がある
一時金を一度受け取ると、再発しても受け取れない場合があります。 - 契約から90日間は、がんになっても保障されない
加入時にすでにがんに罹患していた人に対する給付金の支払を防止するため、一般的に90日間の免責期間が設定されています。
一時金は治療費に限らず、生活費やローンの返済、子どもの教育費など、あらゆる費用に充てられる点が大きな魅力です。一時金が複数回、または無制限で受け取れる商品であれば、万が一再発・転移などをした場合にも給付金を受け取ることができます。ただし、一般的に「1年に1回まで」など給付間隔には制限が設けられていますので、合わせて確認してみてください。
一時金以外の主な保障(給付金)一覧
三大疾病保険には、一時金のほかにも特約という形で以下のような保障があります。具体的な給付金の例から保障内容を確認し、商品選びの参考にしてみてください。
給付金の種類 | 給付金の具体例 |
---|---|
入院給付金 | 三大疾病による入院1日につき5,000円、など |
通院給付金 | 三大疾病による通院1日につき5,000円、など |
手術給付金 | 三大疾病により所定の手術を受けた場合に30万円、など |
抗がん剤治療給付金 | 抗がん剤治療を受けた月ごとに20万円、など |
※上記は、三大疾病保険で受けられる保障の一部です。保障内容は商品によって異なります。
三大疾病保険の特約とは
特約とは、主たる保障(主契約)に上乗せするオプションのことです。商品ごとにさまざまな特約が用意されていますが、特に検討されることの多い2つの特約について解説します。
先進医療特約
先進医療を受けた場合に、かかった技術料と同額が給付される特約です(2,000万円などの上限あり)。
先進医療にかかる治療費は全額自己負担となるため、高額になるケースが少なくありません。一般的に、特約保険料は比較的少額のため、小さな負担で大きな保障が受けられるようになります。
保険料払込免除特約
三大疾病によって所定の状態になった場合に、以後の保険料の払い込みが免除される特約です。
三大疾病にかかると、治療費負担や収入の減少などで、保険料の払い込みが難しくなる場合があります。特約が適用されると、保険料の負担がなくなり、保障は継続して受けられます。
三大疾病保険はいらない? 必要性を解説
ここまでに解説した通り、三大疾病保険は、三大疾病のリスクに対する保障が充実しています。一方で、「三大疾病保険はいらない」と考える人もいます。その理由はどこにあるのか、具体例とともにご紹介します。
公的医療保険が適用されるため
公的医療保険の適用により、医療費の自己負担額は原則3割になります。
■例えば、がん治療の入院費が60万円だった場合・・・
入院中の医療費:60万円 ⇒ 3割負担:18万円
自己負担額が軽減されることで、「もし三大疾病にかかっても、治療費は貯蓄から十分支払える」という考えの元、保険の選択肢から外す人も多いでしょう。ただし、その場合は退院後の通院治療まで計算するようにしてください。通院期間が長期化すればするほど治療費がかさむため、想定内の支出に収まるようしっかり計算を行う必要があります。
さらに、治療中には治療費以外の費用もかかります。
- 治療費以外にかかる費用
- 入院中の日用品にかかる費用(レンタルの場合はレンタル代)
- 入院中の差額ベッド代(4人部屋の場合の平均:1日2,705円)
- 入院中の食事代(原則1食460円)
このほか、生活費や居住費(住宅ローンや家賃)、子どもの学費などもかかってきます。治療中は収入の減少も予想されるため、十分な貯蓄がない場合には保険の検討をおすすめします。
高額療養費制度が使えるため
高額療養費制度とは、1カ月の医療費の自己負担額が高額になった場合に、上限を超えた金額が還付される制度です。上限額は、年齢・収入によって定められます。
■例えば、1カ月の治療費が70万円かかった場合・・・
69歳以下、年収500万円の人の上限額:84,430円
上記のケースでは、ひと月の自己負担額が84,430円を超えた場合に、超過分が還付されます。そのため、上限額までであれば支払えると考える人は多いかもしれません。
ただし、治療の長期化や収入の減少などが重なると、次第に捻出が困難になる可能性があります。治療費以外にさまざまな費用が発生することも考慮した備えが必要です。
先進医療・自由診療には適用されない
ここまでの注意点として、先進医療・自由診療には、公的医療保険・高額療養費制度が適用されません。治療法のひとつとして、先進医療・自由診療を選択する可能性のある人は、先進医療特約を付けておくと治療費が高額になった場合にも安心です。
三大疾病にかからない可能性があるため
日本人の約半数が三大疾病を理由に亡くなっている反面、三大疾病にかからない可能性もあることから、保険料が「もったいない」と感じる人もいます。
一方で、万が一三大疾病にかかると、治療費をはじめさまざまな費用がかかります。保険料が「もったいない」と感じる人には、次の2つのタイプの商品がおすすめです。
- 保険料が「もったいない」と感じる人におすすめの商品タイプ
- 貯蓄性のある商品を選ぶ
三大疾病保険には、解約返戻金のある商品もあります。解約返戻金額は、契約から時間がたつほど大きくなります。掛け捨て型に抵抗がある人におすすめのタイプです。 - 定期型の商品を選ぶ
保険期間を10年、20年などの一定期間に限定する「定期型」は、一般的に「終身型」よりも保険料が割安になります。子どもが成人するまでなど、保障を手厚くしたい期間を絞って効果的に保障が受けられます。
※解約返戻金は、契約後すぐに解約をした場合、少額になるかほとんど戻ってこない場合もあります
三大疾病保険の加入時に確認すべきポイント
三大疾病に加入するときに注意すべき3つのポイントを解説します。
注意ポイント1:保障される疾病の範囲
三大疾病保険には、保障対象となる病気を限定している商品があります。
心疾患、脳血管疾患は、それぞれ心臓、脳血管の疾患の総称です。三大疾病保険のなかには、保障対象を「急性心筋梗塞」、「脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)」に限定している商品があります。
急性心筋梗塞と脳卒中は、どちらも代表的な疾患ですが、保障対象を限定したくない場合には注意しましょう。
■がんの場合には・・・
がんは、悪性新生物と上皮内新生物(上皮内がん)に分けられます。上皮内新生物とは、がんが上皮内にとどまっているステージ0期のがんのことです。かつては、保障対象外とする商品も多くありましたが、現在は保障される商品が増えています。
注意ポイント2:給付金の支払条件の確認
がんの場合は「がんと診断されたとき」に給付金が支払われるのが一般的ですが、心疾患、脳血管疾患は、商品によって条件が異なります。
※がんの場合、給付金の種類によっては「治療を受けたとき」や「手術を受けたとき」が給付条件となっている場合もあります
心疾患、脳血管疾患の場合、「治療のための入院」で給付が受けられるものから、「手術」や「所定の状態が60以上日続くこと」などを条件としている商品もあります。
三大疾病保険に加入する際には、給付条件が厳しすぎないか確認することも大切です。
注意ポイント3:一時金は複数回受け取れるか
がんは再発・転移のリスクがあることで知られていますが、心疾患・脳血管疾患も再発リスクのある病気です。一時金を複数回受け取れるタイプであれば、再発や転移をした場合にも安心です。
また、三大疾病のうち、2つの疾病にかかる場合もあります。その場合にも、複数回受け取れるタイプであれば、それぞれに罹患したタイミングで一時金が給付されます。
三大疾病保険とがん保険、医療保険の違い
比較されることの多い3つの保険は、保障範囲が重なる部分があります。
上の図の通り、三大疾病にかかった場合には、医療保険でも保障が受けられます。そのため、がん保険・三大疾病保険は、加入済みの医療保険に保障を上乗せしたい場合に加入するのが一般的です。
医療保険・三大疾病保険・がん保険の保障内容を比較
一般的に医療保険は、入院・通院治療への保障が柱になっています。治療が長期化しやすい三大疾病に備える場合には、生活費などにも充当可能な「一時金」が受け取れる三大疾病保険の活用がおすすめです。
また、がん保険はがんに備えることはできますが、当然ながら、保障対象はがんに限定されています。心疾患、脳血管疾患のリスクにも備えたい場合には、三大疾病保険を検討しましょう。
三大疾病保険の加入がおすすめの人
上記の内容をまとめると、以下に当てはまる方は三大疾病保険の加入がおすすめです。
- 三大疾病保険の加入がおすすめの人
- がんだけでなく、三大疾病の保障を厚くしたい人
- 先進医療、自由診療を治療の選択肢に考えている人
- 個人事業主・自営業・フリーランスの人
- 貯蓄が少ない人
- 貯蓄性を確保したい人、掛け捨て型に抵抗がある人
三大疾病保険には、死亡保障が保障内容に組み込まれている商品があります。そういった商品を選べば、万が一の際の保障をつけながら、三大疾病にも備えられます。
また、がん保険は掛け捨て型が主流ですが、三大疾病保険には貯蓄型の商品が多くあるため、掛け捨て型に抵抗がある人にもおすすめです。
まとめ
三大疾病は、誰もがかかりうる身近な病気です。ひとたび罹患すると治療が長期化する可能性があるため、貯蓄や保険などで若いうちから備えておくと安心です。
三大疾病保険に加入する際には、保障内容をよく確認した上で、ニーズに合った商品を選びましょう。
大学卒業後、大手損害保険会社勤務を経て独立。保険会社時代は代理店営業、新入総合職員の研修担当に従事する。独立後は、FPとして生命保険をはじめとした保障の見直しや、中小企業経営者への事業承継・相続対策などの提案業務を行う。地方ローカル局にて、お金にまつわる話題を取り扱うラジオ番組「おしえて野口さん!」を23年継続放送中。
大学卒業後、大手地方銀行に就職。融資業務に加え、投資信託・保険商品等の資産管理業務を担当。退職後はライターとして独立。複数の大手WEBメディアにて執筆実績あり。